(第4章 続き)


 しのつく雨を透かして見た先には、2匹の忌まわしい獣が見えた。
 山羊のような頭をもたげ、毛むくじゃらな体をしたそれは
 死んだ魚のようなまなこを半分飛び出させている。
 もう一匹はなんだか分からない頭がひとつ半ついている。よく見ると
 かたつむりのようなのめのめした肌をしていて、目玉を伸び縮みさせている。
 2匹とも人間がそこにいるとは考えていなかったようで、少し離れたところで
 立ち止まり背中を丸めて冒険者たちと対峙するかたちになった。
 「出やがったな!ブルーのくそ野郎どもがあ!」ナディスはそう叫ぶと
 天に向かって右手を伸ばし呼ばわった。
 「ストーム・ブルよ!俺に力を!混沌の奴らをブッ殺すうう!『熱狂』を!」
 「止めて下さい!」マーカインの願いも虚しく、『熱狂』の魔力に憑依された
 ナディスは猛然とカタツムリ頭のブルーに向かって襲いかかった。
 「どうやらやるしかなさそうだ、博士は隠れて!クスコ、ぬかるなよ!」
 山羊頭のブルーに剣をかまえたケインが叫んだ。クスコはケインの背後から
 槍を構えて身をひくくした。「余計なお世話よ!」
 じりじりと間合いを詰める二人に向かって、山羊頭はいきなりゲロを
 吐きかけた。ケインはそれを顔面にもろに受けてしまった。
 「うわっ!」黄色いゲロはケインの視界をふさぎ彼の手にねばついて取れない。
 ブルーはたじろいだ彼の剣先をひとっ跳びで跳び越え、クスコに襲いかかる。
 たまらない悪臭に思わず腰がひけてしまったクスコはブルーの爪を槍で受ける
 のが精一杯だった。そのまま柏の木の幹までずいずいと押し込まれ、ブルーと
 面と向かう格好になってしまった。必死で顔をそむけるクスコの目に、雌の
 臭いに刺激されたブルーの体の部分がむくむくとたちまち醜く盛り上がり、
 そそり立つのが見えた。
 「いやああああああ!」
 
 絶叫するクスコの頭の上をなにかがひゅっとかすめた。
 木の幹に矢が突き立った。
 続けて2本、クスコに迫るブルーの背中に矢が深々と刺さった。
 その矢羽は赤い色をしていた。