2006-04-01から1ヶ月間の記事一覧

(第1章 続き)

剣士のまなざしの先には、砂まじりの風の中に横倒しになった馬車が すでに燃え尽きようとしていた。路上のあちこちで燃えさしの破片から 小さな炎がゆらめいて、散乱した荷箱や人の死骸をあぶり出している。 鞍をつけた馬が1頭、静かに立っていた。そのそば…

(第1章続き)

火の季、それは二柱の神々が覇権を争う季節だ。 太陽神イェルムはその身を白熱するほどに燃え上がらせ、 大地を焼け焦がす。負けじと嵐の神オーランスは 乾いた大地に荒れ狂い、砂煙を巻き起こし太陽の姿を 隠さんばかりに空気を黄色く濁す。 地上を這い回る…

(第1章続き)

ルナー帝国領ボールドホーム駐留軍の百騎長、 通称「シルバームーン」のファーレンは大きな喜びに胸躍らせながら 指令本部から退出した。彼にとって、かつてない重要な任務が 下されたのだ。 この任務の成否の如何は全て自分にかかっている。部下をいかよう…

 第1部

*第1章 闇だ。底知れぬ闇の奥で、ただひとつわびしい灯りがゆらめいている。 ほの暗い光をちらちらと照り返すのは、奇妙にからみあう2つの裸身。 闘争する獣を思わせる荒々しい呼吸、血で濡れた口、そして牙。 青白くなまめく死者の膚を湿らせる冷たい汗。 …