(第3章 続き)


 太陽が高くさし昇り、市の人出もいちだんと賑やかになってきたころ、
ガーハウンド村にもう一台、新しい馬車がやってきた。その馬車は村の中ほどの
アーナールダの小さな寺院の前で止まった。たちまち荷台から匂やかな女たちが
わらわらと降りてきて、手際よく荷物を降ろしはじめた。
 美しい女たちの手によってアーナルダ寺院の前の小広場には艶やかな
朱鷺色の天幕がいくつも張られた。そしてそれを、村のヒマな男衆たちが
遠巻きにして抑えきれない喜びと満面の笑顔をもって熱心に眺めいっている。
 「ねえ、おじいちゃん、この人たちは何を売るの?」
 祖父に手をひかれた幼児が尋ねた。
 「そうさの、『福』とでもいうかな。こうして眺めているだけでも眼福眼福じゃ」
 「まったくだぜ、もう今夜が待ちきれねえよ!だが、ボーヤにゃまだおあずけだ」
 男達はそういって笑った。


 「おう兄さん、あんたみたとこバイソン族のようだね、はるばるこんな田舎町まで
おいでになるたあ、やっぱ祝福を受けにきたんだろ?」
 威勢のいい掛け声にナディスは振り返った。
 「おっ、この俺様を呼び止めるたあ度胸のあるおやじだな。何の用だ?」
 「だからさ、せっかく祝福を受けるなら、もちっと身奇麗にしてオトコっぷりを
あげたらどうよ?いくら「嵐の戦士」様でも女の前でその風体はねえ。」
 「祝福、ってなんだ?ストームブル様の祝福なら全身に満ち満ちてるぜ。」
 「あんた知らないのかい?今夜はユーレリアンの「移動祝福所」が出るんだぜ。
もう天幕も出来上がってるさ。この村の男らやよその村からも大勢祝福を
受けようと今夜は押すな押すなのにぎわいだろうなあ。
おれも商売は早く切り上げて天女さまにおめもじしようと思ってるのさ。」


「へえ〜、ユーレーリアンが来てるのか。それじゃあ男としてはがんばらねえと
いけねえな!」ナディスは鼻息を勢いよく噴いた。
 「そうさ、そのためにもどうだいこの兜!この角の反りかえり具合を見ねえ、
これこそ男の証ってもんじゃねえか、500ソブリンポッキリでどうだ!」
「買っっ!…てめえ、こりゃセーブルの角じゃねえか!おれの目は節穴かよ!」
 インチキな兜を売り台にたたきつけ、ナディスはへらへら笑う小間物屋の親父を
にらみつけその場を立ち去った。


 「面白くねえぜ、いっちょ今夜はユーレーリアの祝福をめいっぱい浴びて
  厄落としすっか!」
 こうしてさらなる不幸に足を突っ込んでいくナディスであった。