第2章


 へっ、今夜はいい晩だぜ。夜風は涼しく、空にゃお星様がいっぱい、
俺様の手の中のコップの中にゃあ酒がいっぱいときたもんだ。これで
柔らかい寝床まで待ってるんだからよ、もうごきげんよ。
 
 あの盗っ人をふん縛ってこのしけた村に入ったときゃ、村の連中
みんな口あんぐりで俺たちを見てやがったな。無理もないぜ、雄雄しい
戦士のこの俺様と、でっかい剣のでっかい男と、のほほんとした博士に
女戦士の旅人の群れなんてめったに見れねえだろうからよ。
耳の穴かっぽじってよっく見やがれってんだ。
  
 案の定盗っ人には賞金がかかってた。あの女、なかなか鋭いな。
村のやつらわいわい言って大喜びして、さっそく明日の朝に
吊るすだと。よっぽどウラミがたまってたと見える。
いま盗っ人は村中のやつらにリンチされて地面にころがってるぜ、
かえーそーによ。

 俺たちは宿に落ち着いた。
俺たちってのは俺たちとあの女も一緒だよ。
まずは卓に腰をすえると博士が言った。
 「今日は大変な一日でした、そして実り多き一日でもありました。
 改めてご挨拶申し上げましょう。
 私はマーカインと申すランカー・マイの学徒。ただいまは毎年恒例の
「知識の探求」の旅の途中でして、こちらの大きい方は2,3日前から
道連れになってくださっているケイン殿です。」
 
 「ケインと申す、フマクト神の僕。共に一戦交えたからは
われらは友の・・」
 ケインの野郎、バカ正直に戦士の礼にのっとって挨拶始めたから
俺止めたんだ。だって相手は女だぜ?そんなの必要ねえだろ。
 
 「まあまあ、堅苦しいことは抜きで行こうぜ。
 俺様は見りゃわかるだろうが天下に隠れもないストームブルの
嵐の戦士、バイソン族の戦士だぜ。名前はナディスだ。
まっよろしく頼まあ。」
 胸はって言ってやったらよう、あのアマ、
「嵐の戦士がどうして地べたをとことこ歩いてるの?」
そうしてにんまり笑いやがった!もももう俺頭に来たぜ!

「失礼いたしました。私の名はクスコ、日の天蓋寺院の聖堂戦士です。
皆様と出会ったのはこのパヴィス街道の先に出動しているわれらの
中隊へ伝令の命を受け、その帰りです。もうじき大祭日なので
いろいろと雑用が多くて・・・」
 
 へえ〜聖堂戦士かよ。どうりで金にこまけえ訳だ。
 よく見るとやっぱ変な女だ。髪は明るい金髪を乱暴に刈り込んだ
まま子供みたいにバサバサだ。とび色の目ん玉に、耳にはルーンの
模様を刻んだ耳飾り。ここまでは珍しくもねえが小鼻にはめてある
金の輪っかは何なんだ。これが流行ってやつかあ?
 体は普通の女と同じくらい、いや小柄なほうかもしれないな。
細い手足をしてるけど、皮の下で筋肉がびんびんに張ってぐりぐり
動いてるのがわかる。
たしかに、聖堂戦士ってのはウソじゃなさそうだ。
こいつが普通の女の服を着て髪を伸ばしたらどんな風になるか
想像してみたけど、俺にはよくわからねえや。

「最初に見かけた時、金髪で槍を持っているからおそらくとは思ったが
女人とは思わなかった・・・あれほどの使い手だ、ともな。」
 ケインがつぶやいた。さすがフマクティ、『武人は武人を知る』
ってやつか?
博士が勢いこんで女に語りかけた。
 「ともかく、こうして出会えたのも神のお導き、クスコさんさえ
よろしければしばらく同道していただけませんか?
鍛えた兵士といえども、街道の一人歩きは危険が多い。
道々聖堂戦士の生活や風習などの話をお聞かせねがえれば、
このマーカインにとって非常に喜ばしいのですが、いかがか?」
 女はこっくりうなずいた。
なわけで、俺たちは一緒に旅をするハメになったよ。
なんか気にいらねえけど、兵士と名乗るからには
そのように扱ってやるぜ、
覚悟しとけよイェルマリオン。


 朝がきた。この俺様にふさわしいキレイな夜明けだぜ。
むさい小部屋を抜け出して中庭の井戸にいくと女が顔を洗ってた。
ずいぶん朝早いんだな、やっぱ訓練されてるからかな?
「おはよう、土踏みさん。」俺を見てそう言ってニッコリ笑った。
 俺も男だ、これくらいは勘弁しといてやるぜ。
 女のやつ、恥ずかしがる様子もなく俺様の体を上から下までじっくり
観察してやがる。ふてえアマだ。
「すごい傷だね、体中についてる。」
 おっ、感心してるみてえだからいっちょ見せてやるか!
「おうよ、『傷の数だけ男になれる』って、バイソン族の言い伝えよ。
この胸のイレズミは成人の儀式のときにカーン様が彫るんだ、
いわば男の証よ。
この顔の傷はガキのときにつけられるんだ。泣かない子供は
勇者の素質ありってほめられるんだぜ。
この腕の傷はセーブル族と戦ったとき、このへんのは、まあその
いろんなとこで戦った時ついたやつで、んでこれが
テルモリ人に咬まれた痕だ、とっくと見やがれ。」
 思いっきりヤツの顔の前にケツを出してやったぜ!
なのにこのアマ表情ひとつ変えないで、俺の尻を眺めてやがる。
 俺が尻をまるだしにした格好で何秒か無言ですぎたあと、
女がぷっと吹き出した。

 「あんたって、かわいいお尻してんのね」
そうしてこらえきれないように爆笑しながら部屋へ戻っていった。

 ・・・俺様の尻が「かわいい」だってえ?!
そんな言い草あるかよ!だんぜん気にいらねえ、チクショー!

(続く)