4人の旅人はガーハウンド村まで行くことになった。
 なぜならこの小さな村には番所などなく、盗賊を狩った賞金を
 受け取るにはガーハウンドの自警団まで申請しなければ
 ならないのだ。
 4人は無料の宿賃と、ちょっといい夕食だけで十分だったが、
朴訥で正直者な村の衆が、わざわざ街道まで出向いていって
盗っ人たちの首を4個、斬りおとして持ってきてくれたのだから
この親切さにはむくいてやらねばならないだろう。
 
 「いまばっちり塩づけにしますんで、ヘェお待ちになって
くだせぇまし。」「そのあいだ縛り首でもご見物なさっちゃ
どうです?あいつもすぐ塩漬けにしまさぁ」
 
 「塩漬け生首かよ、ガーハウンドまでもつのか?半日でくっせえ
 ニオイがしてきそうだぜ」ナディスのぼやきは絞首台が
 がくんとゆれて、わっとあがった村人たちの歓声にかき消された。
 「はあ〜すごい盛り上がりですねえ、村の皆さんは。
 これを書きとめるのは文才のない私にはむずかしそうだ。
 わたくし時々思うのですが、みたままありのままの光景を
 そっくりそのまま記録できるような道具が
 あったらなぁ〜と。さぞかし便利でしょうねえ…。」
 クスコとケインは、冷たい井戸水を飲みながら村人が
 罪人の首を不器用にねじ切るのを眺めていた。絞首台の
 上では子供たちが早くも「死刑ごっこ」に興じていた。


  ルナー軍「ファーレン隊」は日中の極暑もものかわ、ひたすら
 歩みを進め、とある村ーかつてはそう呼ばれたと思しき群落の
 残骸にたどりついた。隊長は斥候を出し廃村の様子を偵察させた。
 「隊長、残っている人間および家畜は見当たりません。この村は
 かなり以前に放棄されたものと思われます。農作物の不作か、
 盗賊にでも襲われたか…」
 「あるいはルナー軍の略奪、かもな」
 隊長の笑えないあけすけな冗談に気まずい空気が流れた。
 「よし、今夜はここで休息だ。総員大休止!装備の手入れを
 怠るな。」
 「ファーレン隊長、こちらに比較的まともな小屋があります。
 こちらでお休みください」部下に案内されながらファーレンは
 朽ち果てた家々や乾ききった小道をながめた。あのときの
 忌まわしい記憶がよみがえり、おもわず眉根をひそめた。
 「もう忘れるんだ、聖堂戦士だったころなど…やつらの
 偽善に絶望して、おれはルナーの庇護を受け入れたのだから。」
 いやな記憶を払い落とすように、ファーレンは赤いマントの
 裾をばさりとうち払い、小屋へと入った。


 「おい小僧、なにやってんだ、早く火を起こせ!」
 「はい、焚き木を拾ってきます!」
 小僧呼ばわりされた若い兵士はそういいながらそっと胸元を
 のぞいてみた。いつから入っていたのか、小さな白ねずみが
 一匹、おとなしく丸くなっていた。
 「もうちょっとの辛抱だぜ、ちびすけ。糧食の用意ができたら
 おまえにもパン分けてやるからな。」兵士は白ねずみの頭を
 そっとなでた。「かわいいやつ。」
  白ねずみはつぶらな赤いひとみをくりくりと動かし、
 あたりの物音を聞き漏らすまいとでもするように、ぴんと
 両耳を立てた。

 (続く)