第3章

 西の空の茜色の光もようやく燃えるような輝きを静め、夕闇が優しい紫の
ヴェールを広げようとするころ、4人の旅人はガーハウンド村に到着した。

 「ああ、明るいうちに着いてよかった。さっそく番所だな!」
 ケインは馬の背から木箱を降ろし、肩に担いだ。木箱の四隅からは
なにやら液体のしみが広がりつつあった。
 番所に詰めていた村人たちは、いきなり机の上に臭う木箱がでん!と
置かれたのに肝をつぶした。「なんだなんだ、あんたたちは?」
 「それ、街道荒しのガガース信者の首よ。あたしらが討ち取ってやったの。
賞金がかかってないか調べてくれる?」
 クスコがこともなげに言い放ったので善良な男たちはますます怪しんだが、
とりあえず箱をあけ検分をはじめた。
 「うは、塩づけにしてもかなりキテるねえ、ほんとにあの盗っ人たちの
首かい?そのへんで行き倒れになったやつの首とかじゃないだろうな?」
 「おい、コイツの頭を見ろよ!こりゃあ『人血染めのバンダナ』じゃねえか?
こんなおぞましいモンを身につけるのはガガースの連中だけだ!」
 「この腕輪にもガガースのルーンが彫ってあるな。どうやらこりゃ
本物らしい。あんたら、すご腕だのう」
 「いやいや、私どもはただの旅人、これも神のご加護あっての…」
マーカインの口上が始まりそうなのでクスコが割って入った。
 「んじゃ、本物と認定されたわけだし、賞金をちょうだい。」

 「うーむ、首ひとつにつき1ホイールじゃから、5ホイールじゃの。」
 「じゃ、1ホイールだけ金貨で、あとの4ホイールはソブリンに両替して
くださいな。使いづらいから。」
 「あんた、聖堂戦士のようじゃが、細かいこといいなさんな。幸い明日から
この村で定期市がたつから、両替したけりゃ明日の夕方にでもまた来なさい。」
 クスコは5枚の金貨を受け取るとニッコリ笑った。「ありがと。」

 4人は宿に部屋をとるとさっそくマーカインが帳面をとりだし日記を
書き始めた。「追いはぎ一人の首にかけられた賞金が1ホイール、と。これは
高いのか安いのか?よく分らない、と。」
 「んじゃ、さっそく山分けしようよ。まず賞金のことを最初に思いついた
あたしが1ホイール貰ってもいいよね?」
 「クスコさんが1ホイール、のこりの3人で4ホイールを分けると、ええと
1ホイールは20インペリアルだから80割る3で…」マーカインは帳面に
計算を書き付けた。
 「カネ勘定なんてめんどくせえことやらすなよ、クスコ。」ナディスが
ぶつぶつとつぶやいたが、「あんた計算できるの?」と言われることが
彼の脳裏をよぎったので、つぶやきはちいさく部屋のすみに消えた。
 
 宿のおかみが飲み物をもって来た。
 「ほんとに、あの盗賊どもにはここいらの村みんな難儀してたんですよ。
何人も商人や旅人が殺されてね。でもこれで安心だ。明日からの市は
久しぶりに活気づくでしょう。皆さんもよかったら見ていってくださいな。」
 「市ですか。なにか珍しい物があるといいですねえ。あっ、おかみさん、
よければ『婿とり合戦』の話をお聞きしたいのですが」
 マーカインは子どものように好奇心をふくらませ、クスコは灯火の明かりに
金貨をかざして輝きを楽しんでいた。ケインは用心ぶかく剣を枕もとに置いた。
 ナディスははやくもいびきをかいて寝入っていた。


(第3章 続く)